空に、和を点てる。

抹茶は、禅とともに海を渡ってきました。
宋から戻った栄西が茶の種を持ち帰り、修行の飲みものとして広がっていった。だから抹茶の話をするとき、わたしたちはいつも禅の話をしていることになります。
調べていくと、茶にまつわるものは、みな円に還っていきました。茶碗の縁のやわらかな丸み。茶筅を引き上げる最後の一筆。点てられた泡の表面。そして禅がその心を託した円相。
空(くう)は、円の中心に生まれる余白で表せる。和は、円が象徴する調和そのもの。わたしたちのしるしが円であることに、迷いはありませんでした。
Matcha came to Japan with Zen. The bowl, the last stroke of the whisk, the surface of the foam — everything in tea returns to a circle. Our mark is that circle, left a little unfinished.
均一ではない丸み。手仕事の器が持つやわらかさを、そのまま線に移しました。
線の太さがわずかに変わります。静・動・静という茶筅の動きを、一筆に込めています。
気づくか気づかないかの切れ目。不完全であることの美しさを、円相はそう表します。
真ん中には何も置いていません。ここが、いちばん大切な部分です。
一杯が点つまでの、二十秒。
宇治で百九十年、茶を挽いてきた家です。覆いの下で日を遮って育てた葉だけを、石臼で、一時間に四十グラムだけ挽く。
速く挽けば熱を持ち、香りが逃げる。遅いことに意味がある仕事です。その石臼の音を、青山に持ってきました。
Nineteen decades of grinding tea in Uji. Forty grams an hour, no faster — heat takes the scent away.



骨董通りから一本入ると、急に音が減ります。焼杉の黒い壁と、生成りの麻。余計なものを置かないのは、器と茶の色をいちばんきれいに見せる背景が、無地だからです。
十四席。坪庭に面した二席は、お一人の方から埋まっていきます。



月に四度、閉店後の店内で茶席をひらいています。正座も作法も要りません。自分で点てた一杯は、たいてい少し苦く、そして忘れられません。
店内の一角には、宇治から運んだ石臼と、茶壺、古い茶箱を置いています。ご自由にご覧ください。
定員六名/二時間/¥5,500(菓子・抹茶つき)/ご予約制

茶缶、茶葉のパウチ、日々の器。送料をかけて運ぶより、青山まで取りにきていただくほうが、茶は元気です。店頭のみでお分けしています。