粟島酒造AWASHIMA SHUZO

02 — Brewing

仕込み

水と、米と、潮路杜氏の手。年に醸すのは一升瓶換算で約八千本。仕込みの全期間を、杜氏一名と蔵人三名で見ています。

四代目・磯崎彦市の代に、当社は普通酒中心の生産から、少量高品質の純米・純米吟醸路線へと舵を切りました。常世暦百二年のことです。

清酒の需要が全国的に縮んでいた時期で、量を追う蔵は次々に苦しくなっていました。彦市の判断は、規模を三分の一に落とし、そのぶん一本ずつの中身を上げるというものでした。当時の蔵人からは強い反対があったと聞いています。

結果として、年産は八千本で落ち着きました。手の届く範囲を超えないことが、この蔵にとっては品質の条件です。増やす計画はありません。

Three Elements

水と、米と、人。

Water

波郷川水系の伏流水

蔵の地下から汲み上げる軟水です。硬度は低く、発酵がゆるやかに進むため、荒さの出ない酒質になります。仕込みも洗米も、瓶を洗う水も、すべてこの井戸の水です。

Rice

契約農家四軒の波郷錦

波郷川上流の谷筋で穫れる酒造好適米です。四軒の契約農家に作っていただいています。粒が大きく心白がはっきり出るので、高精白に耐えます。

Toji

潮路杜氏の系統

常世暦十九年の法人化にあたって初めて潮路杜氏を招聘し、以来この系統の仕込みを続けています。低温で長く、じっくり発酵させる造りです。

Rice

米は、谷筋の四軒から

粟島町は山が海までせり出しているため、田を作れるのは波郷川の上流に限られます。当社の米は、その谷筋にある四軒の農家に作っていただいています。四軒あわせても田は多くありません。年産八千本という規模は、この田の広さからも決まっています。

主体は酒造好適米の波郷錦。粒が大きく、四十パーセントまで削っても割れにくい米です。「粟島」の一部には、この土地の飯米である常世晴も使います。旨みが乗り、燗にしたときに崩れません。

刈り取りは長月の終わりから神無月にかけて。蔵人が田に出て、その年の粒を見てから精米の歩合を決めます。

秋の波郷川上流の棚田
波郷川上流の谷筋。契約農家四軒の田はすべてこの谷にあります。
麹室で杉の麹蓋に蒸米を広げる手元
麹室での手作業。蒸米を広げ、種麹を振る。

People

六名の蔵

杜氏一名、蔵人三名、事務・営業二名。仕込みの全期間を、前の四名で見ています。

杜氏は網代 佐一。潮路杜氏の系統で、当社に入って二十八年、杜氏になって十二年になります。麹は今も全量、杉の麹蓋を使った手作業です。機械にすれば楽になりますが、八千本ならまだ手が届く、というのが本人の言い分です。

酵母は潮路県の試験場が分離した潮九号を使っています。香りが派手に立たず、味の輪郭を残す酵母で、当社の方向とよく合います。

ちなみに「杜氏」という言葉は、もとは刀自 ── 家を切り盛りする女性を指す語だったと言われます。酒造りが家の仕事だったころ、醸すのは刀自の役目でした。杜氏の字が当てられたのは、ずっとあとのことになります。

A Year

蔵の一年

長月

契約農家の田を見て回ります。その年の登熟の具合で、精米の歩合と仕込みの本数を決めます。旧暦八月には「羅摩流し」に奉納酒を納めます。

神無月

刈り取り、精米。蔵洗い。甑、麹蓋、槽の点検と手入れ。この月はほとんど掃除と修繕で終わります。

霜月

蔵人一同で少彦名社に祈念し、その数日後に初添え。ここから仕込みが始まります。

師走 〜 如月

仕込みの最盛期。麹室と仕込み蔵が動き続けます。この期間、蔵の見学はお受けできません。

如月末 〜 弥生

「少彦」の搾りと蔵出し。無濾過生原酒のため、この時期だけの取り扱いになります。弥生の終わりに甑倒し。

卯月

火入れと貯蔵。蔵人の一部はこの月で仕込みを離れます。

皐月 〜 葉月

熟成期間。蔵の修繕、道具の入れ替え、酒販店回り。夏のあいだに屋根や壁を直しておかないと、次の冬に困ります。甘酒を仕込むのもこの時期です。日本書紀には「一夜酒(ひとよざけ)」の名で出てきます。一晩で出来るからです。

Word

かもす、という言葉

「醸す」の語源は「噛む」だ、という説があります。米を口で噛み、唾の力で糖に変えて溜めておくと、やがて発酵して酒になる ── 口噛み酒と呼ばれる、いちばん古い造り方です。

大隅国風土記には、村じゅうで水と米を用意し、口で噛んでは容れ物に吐き入れ、酒の香りがしてきた頃に集まって飲む、という話が残っています。

いま我々が麹室でやっているのは、その唾の役目を麹に置き換えただけのことです。杜氏はよく「麹が全部やってくれる」と言いますが、順序としては逆で、麹に代わってもらったのは人のほうでした。

Fune

槽場

搾りは今も木槽です。醪を袋に入れて槽に積み、自重と、ゆっくりかけた圧だけで搾ります。一回の仕込みを搾りきるのに丸一日以上かかりますが、雑味の出方がまるで違います。

槽の隅には、大火に残った初代の木桶が置いてあります。使ってはいません。動かしたこともありません。

槽場。木槽から搾られた酒が受けに落ちる
槽場。搾りは丸一日以上かけて行います。
貯蔵蔵に並ぶタンク
貯蔵蔵。夏を越して味が乗るのを待ちます。

Storage

貯蔵

火入れをしたあとは、貯蔵蔵で夏を越させます。当社の蔵は入江に面していて、夏でも蔵の奥はさほど温度が上がりません。冷却設備に頼りきらずに済んでいるのは、建物の立地によるところが大きいと思います。

「常世」だけは、この貯蔵をとくに長く取ります。搾ってすぐの状態では、まだ本来の姿になっていないからです。